第3回 ヴェネチアへ

ローマからヴェネチアへはユーロスターの特急で行った。いよいよシルクロード特急の第1弾である。

ローマ、テルミニ駅、4番線。ユーロスターは流線形のスマートなデザインだ。ファーストクラス2両、セカンドクラス5両の7両編成。ファーストクラスは、日本でいえばグリーン車だ。ところがこちらのファーストクラスはゆったりしており、向かい合わせの4人席の間には広々としたテーブルがある。本を広げて、読書もできるし、パソコンも十分に使える余裕がある。窓側も、ゆとりある空間のひとり座席だ。各車両の中央部にはスーツケースなどの大きな荷物が置ける荷物棚もある。
車掌にきくと、定員はファーストクラス130人、セカンドクラス370人の合計500人。ローマ〜ヴェネチア(507km)を4時間27分で結んでいる。最高時速は300km。新幹線にはおよばないが、途中のボローニアから在来線となるため、急にスピードは落ちてしまう。
イタリアの特急はIC(インターシティ)、ES(ユーロスター)、AV(アルタ・ベロチカ)などが有名だ。ICはヨーロッパ都市間を結ぶ昔ながらの国際特急、ESはローマを中心にヴェネチア、ナポリなどの都市間を走る特急で、AVはローマ〜ミラノ間の高架鉄道で、日本でいえば新幹線に相当する。新線も在来線も同じ標準軌道(1435mm)なので、今回乗ったユーロスターはボローニアまでは高架で走り、ボローニアから在来線となり、ローカル線並みの速度になるのだった。
さて、車窓にはのどかな農村風景が広がり、オレンジ色の農家の屋根が夏の光を浴びて輝く。列車は映画「旅情」でキャサリン・へプバーンが涙を流して別れを告げるヴェネチア、サンタルチア駅をめざすのだが、旅の話は本編でたっぷり語りたく思う。

いよいよ「平成シルクロード」の長旅がはじまった。ローマから東へ、最初の街はヴェネチアである。もともと独立した港湾都市国家として発達したヴェネツィアは、中世に最盛期を迎え、”海のシルクロード”の大舞台だった。ペルシャ、アラブと密接な関係をもち、絹、香辛料、金、銀などの貿易で栄えたところだ。一方、ここは中世より情報都市であり、アドリア海を行き来するダウ船が情報機関だった。
ところで現代の情報機関はインターネットである。今回の旅ではモバイルパソコンを携行していたが、はたしてヴェネチアのホテルでの通信は最悪だった。ローマでも同じだったが、各ホテルはプロバイダと契約しており、宿泊者は、個人的にプロバイダと24時間とか、2日間、3日間の時間単位で契約し、クレジットカードで支払うことになっている。その契約の手間が実に複雑なのである。
ローマではテルミニ駅に近いホテルに泊まっていたが、ここでは「SWISS.COM」。ヴェネチアのホテルは「vodafone」と契約せねばならならなかった。ローマのホテルでは、イタリア語が分からず、フロント係に頼み込み、一緒に登録作業をしてもらい事なきをえたが、ヴェネチアの古風なホテルでは従業員も年配者が多く、パソコンが分かるものがいない。ぼくもパソコン音痴世代である。一応係だというおじさんが手伝ってくれても、あちらも日本語が分からないから、画面を眺めながら、あちこち触って、分らない者同士でラチがあかない。パソコンで時々のホットなスポットコラムを送る約束を編集部としてきたから、ストレスは増す一方だ。
二人がかりで、2時間以上かけて、狭い部屋でやりとりし、やっと登録にこぎつけたが、今度はカード会社から拒否された。ローマで盗難に合い、翌日発行してくれた国際的なカード(Amex)だったが(VISAは東京でしか再発行できない)、インターネットのプロバイダ利用契約までの対応は即日ではできなかったのかもしれない。発行元の東京のカード会社に問い合わせると、深夜にもかかわらず「そんなはずはない」と現地に問い合わせてくれ、現地の会社からホテルにまで問い合わせがあり、またまた係のおじさんが部屋に登場することになった。しかし、おじさんがやっても、やはり駄目だった。カード会社の24時間体制ぶり、すぐさまのサービス対応には感服するばかりだが、しかし、結果的にはつながらない。
ならば翌朝、近くのカフェでモバイルに切り替えて試したが、国際的に対応できるはずのEMOBILEもここでは「圏外」で役に立たず。街のあちこちにある、インターネット・カフェでモバイルを持ち込んで試したが、ここでも駄目だった。パソコンはなかなか手ごわいのである。
ところが国が変わり、セルビアのベオグラードに入り、アメリカ系のホテル、ベストウエスタンホテルの部屋からは、たちまちのうちに高速度でインターネットに接続できた。このホテルはデータポートが全室付きで、個人でのプロバイダ契約の必要がなかったのだ。
奢るな、ヴェネチアよ! かつては情報都市だったヴェネチアだが、今は観光客だけを相手にして、古(いにしえ)の栄華の夢に眠っている。かねてから地盤沈下が噂される街だが、情報基地としては、もはや沈んだままである。
ついでにモバイルパソコンの用意を伝えておくと、今回ぼくは本体のほかに、EMOBILEのデータ通信カード(各通信会社で利用できる国が限られているので要注意)を携行した。忘れていけないのは変圧器とソケットで、ホテルには日本製品に対応するソケットはほとんど置いていないので、持参することをお忘れなきよう。ついでにクレジットカードも国際的に通用するものが必携だ。

(取材日/2009年7月18日)

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