第6回 ほっとゆだ駅(JR北上線・岩手県)
温泉という字は入らないが、まさに温泉を表すユニークな駅名だと思う。私のペンネーム(ほっと湯太郎)もここからいただいたものだ。岩手県の北上と秋田県の横手を結ぶJR北上線の丁度真ん中に位置している県境の駅は、日本で最初の駅舎の中にある温泉が話題になった。駅の売店が温泉の入り口である。外部の人は300円。北上線は2時間に1本程度の運行なので、途中下車して入浴する人も結構いると聞く。さらにユニークなのは浴室の中に本物と同じ信号機が付いていること。
列車の発車45分前になると青信号がともり、30分前に黄信号、15分前には赤に変わって出発時刻を教えてくれる。無色透明なお湯の源泉は64.1℃とかなり熱いので水を加えて利用している。源泉は駅前に広がる錦秋湖の岸辺の川尻という所から曳いたもの。そういえばこの駅の元の名前が「陸中川尻駅」だった。駅舎温泉を造ったのが1989(平成元)年のことで、その2年後に「ほっとゆだ駅」という名前に改称したものだった。つまり駅名より先に「ほっとゆだ温泉」があったわけだ。
駅の周辺にはいくつも温泉が湧き出ている。大沓温泉、志賀来温泉、巣合温泉、湯川温泉、湯本温泉などをあわせて湯田温泉郷と呼んでいる。この中で比較的大きな温泉が2つ、駅から南に4kmのところに湯川温泉、反対の北に4kmのところに湯本温泉がある。ともに駅からバス便があった。今回は正岡子規の足跡が残る湯本温泉に向かった。バスは錦秋湖にそそぐ和賀川の蛇行に沿って登っていく。10分するとすぐに大きな街並が見えてくる。それが湯本温泉街だ。
温泉街と言っても街中の一角に5軒ほどの温泉宿が固まっているだけ、周りには飲食店や商店、病院や薬局、郵便局に居酒屋など何でもそろっている集落だ。江戸時代の初めに発見された湯本温泉はそれ以来岩手県と秋田県を結ぶ交通と物流の拠点として栄えてきたようで、それを窺わせる街の様子だった。
さてお湯の体験。共同浴場「丑の湯」が一つ。泊まった宿が和賀川の見晴らしが良かった「ホテル対滝閣」。ともに共同管理されたお湯で、源泉温度は極めて高くて91℃、成分総計が1581㎎の芒硝性苦味泉に分類される無色透明な癖のないお湯。かなり熱いため加水をして循環していた。
もう一つ、湯本郊外の田園地帯にあった日帰り施設「砂ゆっこ」は東北で最初の砂湯体験もできる入浴施設だった。指宿以来の砂湯は、15分間の我慢比べのあとの風に吹かれての散歩が最高だった。
立ち寄り情報: | 駅舎の温泉「ほっとゆだ」 7:00~21:00 ¥300(地元の人は¥150) |
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湯本温泉 共同浴場「丑の湯」 7:00~21:00 ¥250 | |
岩手湯本温泉「ホテル対滝閣」 11:00~15:00 ¥700 | |
槻沢温泉「砂ゆっこ」 8:00~21:30 ¥300 砂湯9:00~18:30 ¥1000 |