第4回 戸狩野沢温泉駅(飯山線・長野県)

戸狩と野沢の2つの温泉の入り口にあたるのでこの駅名がある。戸狩温泉は20年ほど前に新しく掘削した温泉なので、今回は奈良時代に開いたとされる古湯「野沢温泉」を紹介しよう。駅からはバスで東へ15分ほどの近さだ。

長野県の野沢温泉はスキー場のある温泉地として昔から親しまれてきた。全国の温泉地がバブルを過ぎてさびしい様子を見せている中で、野沢は昔ながらの変わらない日本の温泉地の雰囲気を残している。民宿も含めると350軒以上の宿がいまも営業を続けている元気な温泉だ。草津の湯畑に相当する湯町のシンボルが「麻釜」である。周辺の旅館の大半のお湯をまかなっている源泉だ。お湯が湧いている様子を覗くことができる。透き通った湯が湯けむりをあげて大量に湧いており、見た目にも熱そうだ。81.8℃だそうだ。麻釜はこの村では台所としても利用されてきた。名物の野沢菜をゆがく村人の光景が冬シーズンの風物詩として何度も紹介されている。

麻釜

麻釜湯

湯沢では共同浴場めぐりがお勧めだ。街の中心にある「大湯」をはじめ全部で13か所もある。源泉が違うとお湯もまた異なってくる。アルカリ性単純温泉が多いが、中には硫黄分で白濁している硫酸塩泉のお湯もある。温度も83℃から43℃ほどと、まちまちだが熱めのお湯が多いのでご用心だ。これらの共同浴場を守っているのが伝統の「湯仲間」だ。その仕組みは素晴らしい。町内会のような地域のグループが温泉を天からの恵みとして大切に守ってきた。壁にはその湯仲間たちの名前が張り出されている。30人から50人くらいがひとつのグループを作っているようだ。朝早くそのうちのひとつを覗くと湯船の掃除をしているご夫婦らしき人たちに出会った。当番制で掃除をしているのだろう。その共同湯は仲間たちだけではなく観光客にも差別することなく無料で開放している。ふところ深い温泉地だ。共同浴場を無料で開放しているのはほかでは草津しかない。また、湯仲間たちはお湯の権利に保守的とも思える姿勢を持ち続けてきた。バブル時代でも新しい開発を認めず、そのため新しいビル群が立ち並ぶこともなく、昔のままの温泉地であり続けたといえる。巨大化して空洞化していった多くの観光温泉地が苦境に立たされている中で独自の道を歩んできた。いつまでも生き残ってほしい温泉である。

まつはの湯

中尾の湯

共同浴場「大湯」

共同浴場「大湯」の外観

December 2024

2024年12月

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