JR・温泉駅を訪ねて

JRの駅名に温泉が付くのは意外と少なくて全国で三十カ所ほどである。このシリーズではそれらの駅の温泉を訪ねてみる。

第7回 瀬見温泉駅(JR陸羽東線・山形県)

  • 記事:小池 静一
  • 更新日:2013年2月7日

潮見温泉

温泉駅が5つもあるJR陸羽東線。瀬見温泉駅は山形新幹線の終着駅の新庄寄りにある。駅に降りて国道を渡ると最上川の支流小国川の流れが見える。さらにその川の1kmほど先には大きな鉄筋ビルやいくつかの建物が集まっているのが見える。それが瀬見温泉街だ。

ふかし湯

ここはあの弁慶が掘り当てた温泉と伝えられているのだ。義経一代記「義経記」によると、義経たち一行は兄源頼朝の追っ手を逃れ岩手県平泉に向かう途中にこの地を通ったとされている。その伝説をもとに数々の遺跡が温泉街の周辺に点在する。義経の子「亀若丸」の誕生で弁慶が産湯を探していた時に見つけたのが川辺の「薬研湯(やげんのゆ)」、亀若丸の名前を付けるときに弁慶が墨をすったという「弁慶の硯石」、誕生を祝って弁慶が峠の頂上から投げた松が根付いたという「弁慶の投げ松」などなど、いつの時代に誰が考えて作ったのか、おとぎ話そのものだ。

喜至楼

温泉街は川の南側に固まっている。その丁度真ん中に共同浴場がある。ここの名物が「ふかし湯」だ。浴室の板の間には10cmほどの穴がいくつか開いている。床に寝ころんでその穴から吹き出す湯気に体を当てるというもの。常連客は1時間とか2時間も利用するそうだ。

喜至楼の円形湯船

10軒ほどの旅館が軒を連ねている。比較的新しい小型のビル旅館が多い。その中でひときわ目立っていたのが江戸時代からの老舗旅館「観松館(かんしょうかん)」だ。周りの風景には似合わない鉄筋建ての立派な高級ホテルで天皇はじめ皇族方が利用されているという宿。同じ老舗でも道路を挟んで建つ「喜至楼(きしろう)」は山形県内で最古の旅館建築物を誇っている。本館は明治初年の風格のある木造建築で、玄関に入るとふすまの木の浮彫が出迎えてくれる。正面には明治時代の大きな時計がかかっている。障子にも遊び心のある彫刻が施されていて眺めているとタイムスリップしたようだ。隣りにつないで建てた別館は大正・昭和の建物で、館内をめぐるとギシギシ音はするもののある種のワンダーランドだ。その地に来ないとお目にかかれない建物を眺め利用する、これが旅の醍醐味ともいえる。その意味でも喜至楼との出会いは心を豊かにするページがまた加わったと思う。極め付きがローマ千人風呂と名付けられた大風呂だ。直径が10mを越える真ん丸な湯船、その真ん中の円柱、周りには西洋の絵柄のタイル、ヨーロッパをイメージして造ったようだ。源泉温度が熱くて67.3℃もあるので加水して利用している。石膏分を含んだ塩泉はミネラル成分が多かった。この日は大きな千人風呂を一人占め。お湯に浸かっている間ずっと大名気分だった。

立ち寄り情報: 共同浴場 6:00~18:00 ¥200
  「ふかし湯」 9:00~12:00 13:00~16:00 ¥300
  「観松館」  13:00~15:00 ¥600
  「喜至楼」 10:00~15:00 ¥500

May 2017

2017年5月

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プロフィール

JR・温泉駅を訪ねて

担当
小池 静一さん

1946年、東京生まれ。慶応大学経済学部卒業。1970年、NHKに入社。ディレクター、プロデューサーとして「モーニングワイド」、「ニュースセンター9時」、「サンデースポーツ」などを担当し、「ふだん着の温泉」にも協力。1994年、仙台支局に転属以来、東北をはじめ全国各地の温泉に親しみ、現在までに浸かった温泉は1000湯を超える。主催するブログ「ほっと湯太郎の温泉ねほりはほり」は人気サイトになっている。著書に『温泉の底力』(祥伝社)がある。