第2回 下部温泉駅(JR身延線・山梨県)

山梨県にある古い温泉の大きな特徴は、ほとんどが武田信玄の隠し湯をうたっていることである。温泉は武士たちの秘密の野戦病院として使われていたというのだ。証拠もなにもなくて怪しいと思える温泉地もあるが、この下部温泉には川中島の戦いで傷ついた将兵たちが治療したという記録が残っているという。昔から骨折や傷の療養に良いとされていて、奥の熊野神社には傷を治した人たちが奉納した松葉づえが積み重ねられている。スキーで骨折をした石原裕次郎が1か月以上滞在して傷を癒したことは、伝説に加わった新しいエピソードとなっている。

下部温泉街

下部ホテルの浴場

駅前に旅館の一覧表の看板が飾ってある。それによると今なお30軒近い宿が健在のようだ。駅前から下部川に沿って温泉街は奥へ奥へと延びている。旅館は木造二、三階建てが多く、食堂や土産物屋も数軒あって、湯治場の雰囲気が今なお色濃く残っている。

下部ホテルの裕次郎写真館

温泉水の分布を、富士山を中心に見てみよう。富士山そのものが火山だが、そのすそ野の東側には箱根や伊豆という大温泉地が控えている。伊豆大島や三宅島の火山が噴火したことはまだ記憶に新しい。マグマの活動が活発で温泉も高い温度のお湯が豊富に湧いている。ところが富士山の西側になると様子が変わってくる。山梨県側にも多くの温泉が湧いているがそのほとんどが低い温度の温泉である。地下水脈の不思議な現象だ。甲州最古といわれる山梨市の岩下温泉の源泉は35℃だった。そして下部温泉の源泉はもう少し低い29.8℃のぬるいお湯だ。

下部温泉会館

地下から湧いたばかりの源泉をそのままかけ流しているのが「元湯源泉館」の内湯で、30畳もある広い浴槽には壁の岩間から肌にぬるぬるする単純温泉のお湯が大量にしみ出てくる。ここではいまだに混浴だ。みんな丸太のように動かないで浸かっている。中には1時間以上の人も。本を持ち込んで読書を続ける人も見かけた。体温と同じくらいの温度のお湯に長く浸かっていると、お湯の存在が体の周りからいつの間にかなくなって浮遊しているような感じがしてくる。このことが治療効果にもつながっていくのだと思う。裕次郎もこうして傷を治したのだろう。

元湯源泉館

源泉館の混浴湯

November 2020

2020年11月

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